令和8年9月から始動する「KSK2」で税務調査はどう変わる?

 税務署では、申告された内容やさまざまな資料情報を分析し、税務調査の対象者を選定しています。
 その中心的な役割を担ってきたのが、「KSK(国税総合管理)システム」です。

  そして令和8年(2026年)9月、国税庁ではこの基幹システムを刷新し、次世代システムである「KSK2」を本格導入します。国税庁はKSK2について、「データ中心の事務処理」「税目別データベース・アプリケーションの統合」「オープンシステムへの刷新」を主な開発コンセプトとしています。

 KSK2の導入によって、
 「AIで税務調査先が選ばれるようになる」
 「税務調査が一気に厳しくなる」
 といった話を目にすることもあります。
 しかし、実務の観点から見ると、KSK2が始まったからといって、税務調査への対応方法そのものが大きく変わるわけではありません。
 前回はKSK2による様式の改訂について解説しました。今回は、KSK2によって税務調査がどのように変わるのか、税務署・国税局での勤務経験を踏まえて解説します。

1 そもそもKSKとは?

 KSKは、全国の国税局と税務署をネットワークで結び、申告・納税の実績や各種資料情報などを管理・分析する国税庁の基幹システムです。
 平成2年から本格的な開発が始まり、平成7年以降順次導入され、平成13年11月には全国の国税局・税務署への導入が完了しました。
 KSKには、

  • 所得税・法人税などの申告情報
  • 納税情報
  • 過去の調査実績
  • 法定調書などの資料情報
  • その他、国税当局が保有する各種情報

 などが蓄積されています。

 こうしたデータを分析することで、税務調査の対象者の選定や、調査で確認すべきポイントの把握などに活用されてきました。
 つまり、税務調査は昔から担当者の「勘」だけで選ばれているわけではありません。
 システムによるデータ分析と、税務職員の経験や判断を組み合わせて調査対象を選定するというのが基本的な考え方です。

2 従来のKSKにも弱点があった

 KSKは国税行政の基幹システムとして長年利用されてきましたが、導入から20年以上が経過し、さまざまな課題も出てきました。
 国税庁自身も、現在のシステムについて税目別のデータベース・アプリケーションとなっていることや、独自OSを使用した大型コンピュータを中心とする構成となっていることを挙げています。
 私自身、国税組織で勤務していた当時にKSKを使用していましたが、決して使い勝手のよいシステムとはいえませんでした。
 多くの情報が蓄積されている一方で、税目や事務系統の壁を越えて情報を柔軟に利用するという面では制約があり、せっかく蓄積されたデータを100%活用できていたかというと疑問が残るシステムだったというのが個人的な印象です。
 そこで登場するのがKSK2です。

3 KSK2で大きく変わるのは「データの使いやすさ」

 KSK2の特徴として、国税庁は主に次の3点を挙げています。

書面中心からデータ中心へ
② 税目別データベース・アプリケーションの統合
③ メインフレームからオープンシステムへの刷新

 特に税務調査という観点から重要なのが、税目ごとに分かれていた情報を横断的に活用しやすくなることです。
 例えば法人であれば、
 法人税だけを見るのではなく、

  • 法人税
  • 消費税
  • 源泉所得税
  • 法定調書
  • 過去の申告状況
  • 過去の税務調査結果
  • 国税当局が収集した各種資料情報

 などを組み合わせて分析することが、これまで以上に行いやすくなると考えられます。
 申告書一つ一つを見るだけではなく、納税者に関する複数のデータを横断的に確認する環境が整うことがKSK2の大きな変化です。

4 税務調査の現場からKSK2にアクセスできる

 もう一つ、税務調査への影響が大きいのが、庁舎外からのアクセスです。
 国税庁はKSK2について、調査先など庁舎外からもシステムへのアクセスを可能にし、調査を効率的に行えるようにすると説明しています。
 現在のKSKは基本的に税務署内部で利用するシステムです。
 そのため調査現場で気になる取引が出てきても、税務署に戻ってからシステム上の情報を確認するような場面があります。

 KSK2では、調査先から必要な情報にアクセスできるようになるため、
 「過去の申告ではどうなっているのか」
 「税務署が持っている資料情報と一致しているのか」
 といった確認を、その場で行いやすくなります。
 これは、実際の税務調査の進め方に影響する可能性があります。

5 「AIが税務調査先を選ぶ」はKSK2から始まる話ではない

 KSK2について特に誤解されやすいのがAIです。
 「令和8年9月からAIが税務調査先を選ぶようになる」
 という説明を見かけることがありますが、これは正確ではありません。

 国税庁ではすでに、申告・決算情報、資料情報、過去の調査事績などのデータを分析し、申告漏れの可能性が高い納税者を判定する予測モデルの構築・活用を進めていました。
 AIや機械学習なども利用しながら、調査必要度の高い納税者にはより深度ある調査を行うという方向性は、KSK2以前から進められています(私が国税調査官だった頃も既にありました)。

 したがってKSK2は、「AIによる税務調査選定が始まるシステム」というより、
 「国税庁が持っているデータを、より効率的・横断的に活用するための新しい基盤」と考えた方が実態に近いでしょう。

6 KSK2になれば税務調査が急増する?

 ここも気になるところだと思います。
 KSK2によって調査対象者を効率よく抽出できるようになったとしても、実際に税務調査を行うのは税務職員です。
 当然ながら、税務職員の人数や調査に使える日数には限界があります。
 したがって、KSK2になった途端に実地の税務調査件数が何倍にも増えるというものではないと考えられます。
 むしろ国税庁は、限られた人員の中でデータを分析し、申告漏れの可能性が高い納税者には実地調査を行う一方、それ以外については文書や電話による自主的な見直しを促すなど、調査以外の方法も活用しています。
 また、現在、各国税局ともに内部事務を集中化するための「業務センター」に人員を割いているため、実地調査を行う人員が以前よりも減っているという実情もあります。

 今後KSK2によってデータ分析がしやすくなれば、実地調査だけでなく、こうした文書照会や電話による行政指導が効率化される可能性もあります。

 なお、税務調査と行政指導は法律上も別のものです。税務署から連絡があった場合には、それが「税務調査」なのか「行政指導」なのかを確認することも重要です。国税庁も、納税者に連絡する際にはどちらに該当するのかを明示することとしています。

7 KSK2になっても、税務調査で見られるところは変わらない

 では、事業者はKSK2への切替えに備えて何をすればよいのでしょうか。
 結論としては、特別なKSK2対策をする必要はありません。

 税務調査で確認されるポイントは、これまでと基本的には同じです。
 例えば、

  • 売上が漏れなく計上されているか
  • 売上と仕入れのバランスに不自然な点がないか
  • 利益率が前年から大きく変動していないか
  • 消費税と法人税・所得税の申告内容に矛盾がないか
  • 多額の経費に合理的な説明ができるか
  • 役員や親族との取引が適正か
  • 帳簿と請求書・領収書などが一致しているか

 といった点です。
 KSK2によって変わるのは、税務署側がこうした違和感を見つけるための道具が使いやすくなることです。
 調査で最終的に問われるのは、
 「誰が調査先として選んだか」ではなく、「なぜこの申告内容になっているのかを説明できるか」
 ということです。

まとめ|結局確認されるのは「帳簿」と「証憑」

 KSKからKSK2へ。AI、データ分析、税目横断的な情報活用など、税務行政のデジタル化は今後さらに進んでいくでしょう。
 しかし、税務調査を受ける側がやるべきことは変わりません。

 日々の取引を正しく記帳する。
 請求書や領収書などの証憑を保存する。
 申告内容と帳簿の数字を一致させる。
 そして、その取引について説明できる状態にしておく。

 システムがどれほど高度になっても、税務調査で最終的に確認されるのは、実際にどのような取引が行われ、その取引が帳簿や証憑によって裏付けられているかという点です。
 KSK2を必要以上に恐れる必要はありません。一方で、データ分析の精度や国税内部での情報共有が進めば、これまで以上に「数字の不整合が見つかりやすい税務行政」になっていくことは意識しておいた方がよいでしょう。

 佐沼幸太郎税理士事務所では、仙台市を中心に法人・個人事業主の税務相談や税務調査への対応を行っています。
 税務署から税務調査の連絡があった場合や、「今の経理処理で税務調査を受けても大丈夫だろうか」と不安がある場合には、お気軽にご相談ください。

執筆:代表税理士 佐沼 幸太郎

仙台市若林区土樋76ファミール愛宕202 佐沼幸太郎税理士事務所