調査前に会計データの提出を求められる?国税庁の新たな取組と注意点

 税務調査というと、税務署の調査官が会社や事業所を訪問し、帳簿や請求書などを確認するイメージがあると思います。
 しかし、最近では税務調査の進め方も変わりつつあります。
 国税庁では、税務調査の効率化を目的として、調査官が会社を訪問する前に、会計データなどの提出を求める取組を進めています。

 また、令和8年7月以降に実施する税務調査では、提出された電子データの取扱いについて、税務署側が説明する取組も始まりました。
 今回は、国税庁が令和8年10月に公表したQ&Aを踏まえ、税務調査における会計データの提出について解説します。

1 税務調査の前に会計データの提出を求められる

 これまでの税務調査では、調査官が会社や事業所を訪問し、帳簿や請求書などを確認した上で、必要な資料を持ち帰って詳しく調べることが一般的でした。
 しかし、国税庁では、実地調査の前に会計データなどを提出してもらい、あらかじめ内容を確認する取組を進めています。
 例えば、会計ソフトから出力した総勘定元帳などのデータを事前に提出することで、調査官は会社を訪問する前から帳簿の内容を確認できるようになります。
 国税庁は、この取組によって調査の効率化を図り、会社側の対応時間や調査期間の短縮につなげたいとしています。
 ただし、事前にデータを提出したからといって、税務署による訪問調査がなくなるわけではありません。

2 税務調査の事前通知より前に提出を求められることもある

 通常、税務調査を実施する場合には、あらかじめ調査日時や対象となる税目・期間などについて事前通知が行われます。
 会計データの提出依頼についても、原則として、この事前通知後に行われます。
 ただし、調査日程の調整に時間がかかる場合などには、事前通知より前に会計データの提出を求められることもあります。
 また、調査官が会社を訪問しない調査であっても、必要に応じてデータの提出を求める場合があります。
 このように、税務調査は必ずしも調査官が会社を訪問するところから始まるとは限らなくなっています。

3 会計データの提出を断ることはできる?

 経営者の方にとって、特に気になるのがこの点だと思います。
 国税庁のQ&Aでは、実地調査前の会計データの提出について、納税者の理解と協力の下、承諾を得て実施すると説明しています。
 そのため、事前の電子データ提出については、セキュリティ上の懸念などがある場合、税務署と提出方法や時期について相談することが考えられます。

 ただし、ここで注意が必要です。
 税務調査における帳簿書類等の提示・提出要求には、法律上の根拠があります。
 正当な理由なく提出要求に応じない場合には、罰則の対象となる可能性があります。
 もっとも、国税庁は、事前のデータ提出依頼に応じなかったことだけで直ちに罰則が適用されるわけではないことも明らかにしています。
 したがって、提出を求められた場合には、自己判断で拒否するのではなく、顧問税理士に相談した上で対応することが大切です。

4 提出した会計データは税務署でどう扱われる?

 会計データには、売上先や仕入先、取引金額など、会社の重要な情報が含まれています。
 そのため、提出後の情報管理を心配される方もいると思います。
 国税庁では、令和8年7月以降に実施する税務調査について、データの提出を依頼する際に、次の事項を説明する取組を開始しました。

  • 電子データの受領・管理・消去の方法
  • 国税当局の情報セキュリティ体制
  • 国税職員の守秘義務と違反した場合の罰則

 また、提出されたデータは行政文書として管理され、課税処分の証拠として保存が必要なものについては、通常7年間保存した後、消去されると説明されています。
 なお、提出したデータが、その会社の税務調査だけに利用されるとは限りません。
 国税庁のQ&Aでは、税務調査で把握した情報について、他の納税者の税務調査や行政指導に活用する場合があることも明らかにしています。
 例えば、接待交際費として取引先と11/1にA食堂で6,000円の食事をしたというデータは、A食堂には11/1に6,000円の売上がある、という情報として活用されるということです。

5 事前に会計データを提出すると税務調査はどう変わる?

 税務調査のデジタル化によって、調査官は会社を訪問する前から会計データを確認できるようになります。
 そのため、実地調査では、事前に確認した内容を踏まえて、特定の取引や経費について詳しく質問されることも考えられます。
 また、会計データは電子的に集計・分析しやすいため、売上や経費の推移、特定の勘定科目の動きなどを確認することも容易になります。
 こうした変化を踏まえると、今後は、単に領収書や請求書を保存しておくだけでなく、日頃から正確な帳簿を作成し、取引内容を説明できる状態にしておくことが、これまで以上に重要になると考えられます。
 なお、事前に会計データを提出した後で申告誤りが見つかり、修正申告を行う場合には、加算税の取扱いにも注意が必要です。
 国税庁は、データを提出したという事実だけで、申告誤りを税務署に把握されたと判断するわけではないと説明していますが、修正申告の時期や経緯によって加算税の取扱いが変わる場合があります。

6 まとめ|税務調査への備えは日頃の帳簿作成から

 税務調査のデジタル化によって、税務署が事前に会計データを確認し、効率的に調査を進めることが可能になってきました。
 しかし、会社や個人事業主が日頃から取り組むべきことは、これまでと変わりません。
 大切なのは、正確な帳簿を作成し、売上や経費の内容をきちんと説明できる状態にしておくことです。

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執筆:代表税理士 佐沼 幸太郎

仙台市若林区土樋76ファミール愛宕202 佐沼幸太郎税理士事務所